グリーンインフラ特集・朝日健太郎国土交通大臣政務官インタビュー

インタビュー 企画

グリーンインフラの主体は国民、地域の皆さん。現場で様々な効果が生まれていくことが大切

朝日健太郎 国土交通大臣政務官

 「緑や土壌、水といった自然環境を有する多様な機能を活用したグリーンインフラの取組を通じて、各地域の社会課題の解決や、また持続可能な魅力あるまちづくりに貢献されてきましたこと、その健著な実績を高く評価し、改めて皆様の取組に心から敬意を表するとともに、取組を支えてこられた皆様、関係者の皆様に心よりお慶びを申し上げます」―――

 第1回グリーンインフラ大賞「国土交通大臣賞」表彰式(令和3年3月にWEB開催)の席上で冒頭のあいさつをした朝日健太郎参議院議員にインタビュー。

 国土交通大臣政務官として、グリーンインフラ事業への想い、国の施策、今後の展望とともに、建設業界へのメッセージをお聞きしました。



社会資本整備をもう一回考え直す時。グリーンインフラは有効な手段の1つ

――国土交通省のグリーンインフラに対する考え方、取り組みを教えてください。

朝日:グリーンインフラという言葉を一つ取っても、業界の皆さんにとっては分かるようで実はまだ分かっていただけていないのかなと認識しています。大きな変革期を迎えたこの時代の社会情勢の中で、国土交通省では防災・減災、持続可能性、そして脱炭素など社会資本整備をもう一回考え直そうとする、大きな方針があります。

その実行段階においてグリーンインフラ事業は、自然環境の持つ多様な機能性をしっかりととり入れながら防災・減災、環境保全、地域振興といった地域の社会課題を複合的に解決し、持続可能で魅力ある地域づくりを進められます。分かりやすく言えば『自然』です。緑、水、個人的には砂もそうです。こういった資源は、今、都市整備をはじめ、防災・減災機能に組み込んでいこうというのが国土交通省としてのグリーンインフラの大きな方針であると思います。

グリーンインフラの社会実装を推進するため分野横断・官民連携して取り組めるよう、令和2年3月に産官学の多様な主体が参加する「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」を設置しました。ここでは多様な分野の業界団体や民間事業者、NPO、学識者など1100者を超える皆さんに参加いただき、社会的普及、技術に関する調査・研究、金融手法の検討などの活動を展開しています。

ここで一つ勉強になったのは、われわれが政策としてグリーンインフラというものを定義付けする以前に、地域の皆さん独自の自然環境を使った教育であったり、地域振興であったり、もちろん防災、避難訓練であったり。われわれが目指す姿は、実は地域の皆さんが既に実践されていたということが、非常に今回、収穫として得られました。



グリーンインフラ大賞は、地域の皆さんに対するエール

第1回グリーンインフラ大賞「国土交通大臣賞」表彰式(令和3年3月にWEB開催)

――今年3月、第1回グリーンインフラ大賞(国土交通大臣賞)では、赤羽大臣に代わって表彰されました。

朝日:全国から防災・減災、生活空間、都市空間、生態系保全の4部門で117件の応募をいただき、5事例を国土交通大臣賞として選定させていただきました。

今回の表彰は、われわれとしての地域の皆さんに対するエールでもあります。これは、両輪としてさらに推し進めていきたい。総じて言えたのは、皆さん、地域のために尽くしたいという思いと、それを実現するために地域資源という、その中でも自然環境という資源をしっかりととらまえて、実践されていたということが特に印象的でした。

さらには自然に近い場所でのさまざまな活動です。防災・減災、教育、地域振興という、さまざまな目指す姿があるとは思いますが、皆さん自然と関わっているという時点で非常に生き生きとされていて、活力を感じました。

やはり、グリーンインフラの主体は、実行していただくのは国民の皆さんであり、地域の皆さんですので、現場で様々な効果が生まれていることがより大切だと思います。

――政務官のお言葉の中で、皆さんのことを主体と呼ばれていたことが印象的でした。今回私どもの取材先の一つ、仙台市では今後のグリーンインフラにおける活動財源の悩みもお聞きしました。

朝日:仙台の杜、とても覚えています。われわれとしても地方創生、地域活性化という今の直視しなければいけない社会課題の解決に向けて、持続可能な事業性をしっかりと応援しなければいけないと思います。

その鍵になってくる財源、プラス、今後は人の支援もそうだと認識しています。地域資源である自然環境は各地にありますが、その自然を活かし、育む人がいて、かつ、いかに事業を継続していけるのか。もっと欲を言えば、次の世代、子どもたちの世代までもが地域の資源として魅力的に感じ、受け継いでいけるような、その点も中長期的な視点に立って、グリーンインフラを進めていただきたいという想いです。

――実は、次に用意していた質問の中では、日本版のグリーンインフラの完成形というか、必要な要素をお聞きしようと思ったのですが、今、政務官がその部分もお話をしてくださったように思います。

朝日:そうですね。日本の国土を考えたときに、東京のような大都市圏があるわけです。この大都市圏にどのようにグリーンインフラの考え方を実装していくのかという点も一つの切り口ですし、一方で、日本には四季がありますので、季節を踏まえた自然環境との地域、社会資本整備の共存、この点も日本の特徴だと思います。

そう考えていくと、今回表彰させていただいた地域の皆さんはじめ、いまが出発点かなと思っていますので、様々な事例をしっかりと広げていきたいと感じます。また、そのための財源と、そのための人の支援が必要と認識しています。さらには、今後も自治体の首長さんとも連携を取って、しっかりと振興していただけるようなお手伝いもしていきたいと思います。

――第1回グリーンインフラ大賞、117件もの応募数があったとお聞きしました。

朝日:そうですね。私も117件の応募があったと聞いた時に、多い印象を受けました。地域のさまざまな事情であるとか、地域の体力に応じた、そういったグリーンインフラの取り組みは、入り口というか、ハードルは低いのではないかなと考えています。

四つのテーマ、都市空間と、防災・減災、生活空間、生態系保全、いずれも素晴らしい取り組みでした。大賞にはとどきませんでしたが、例えば、横浜ブルーカーボン・オフセットなんかも良かったですね。是非多くの事例をご紹介していただいて、地域の皆さんのヒントになれば非常にありがたいと思います。



グリーンインフラ機能(効果)の評価手法にも着手

――この特集にあたって、特に企業の皆さんのお話を聞いていく中で、グリーンインフラの定量評価や達成状況を見える化すべきといった課題も聞こえてきました。この部分についてどうお考えでしょうか。

朝日:まずご理解いただきたいのは、中長期的に国土整備を考えていったときに、国の方針として2050年に脱炭素社会を大きく掲げているということです。大転換とまでは言いませんが、新しい時代に向けて新しい方向性は必要です。その点においてのグリーンインフラという考え方、取り組みは、間違いなくこれから必要になってきます。

その上で、都市空間部分と建設構造物であれば、これまで緑化の部分をどのように広げていくのかとか、さらにグリーンインフラを活用した都市機能の向上などは比較的、定量的に測定はしやすいと思います。一方で、生態系や、防災・減災の視点では、まだまだデータとして非常に少ないので、ある程度積み上げた中で、より業界の皆さんが積極的に関わっていただけるような、そこは足並みを揃えていきたいと思っています。

プラットフォームでは「グリーンインフラ機能(効果)の評価手法の整備に関するワーキンググループ」を今年度から設置して、土の貯留浸透効果や植物の蒸発散効果、精神的・身体的健康・満足度に及ぼす効果など様々な評価手法を整理していきます。

私自身が感じているのは、アメリカの都市政策を勉強していく中で、地価の向上や人口増の起点となったのは、街の整備の中に緑があって、水辺があって、そして、砂があるんです。例えばですけれど、ナイキ本社とかGoogle本社には、会社の中にそういった機能を置いていて、社員にとっても憩いであり、潤いを創出しています。これを街の都市整備に置き換えたときに、非常にグリーンインフラの可能性があると思っています。当然、防災・減災の観点など様々見直さなければならないとも思いますので、定量的に、どのように目標値をつくっていくのかは必要だと考えています。

――建設専門紙の立場上、今のようなご質問をさせていただきましたけれども、一方で、これだけ壮大なテーマになると、実は小さいことのようにも思えます。数値化や定量評価、そういったことよりも、地域の人々の意識だったり、つながりだったり、そういったところに広がっていくのが今回のテーマなのかなという理解はしています。

朝日:そうですよね。きょうの取材の一番肝心なことをおっしゃっていただいて本当によかったと思います。表彰式に出ていただいた皆さんのお顔を見れば、このグリーンインフラが目指す最後のゴールは、本当にその笑顔が全てを物語っていると思います。もちろん、この事業が産業の振興にもつながっていくようにわれわれもしっかりとやっていきたいと思います。



日本の自然環境資源、特に注目しているのは「雪」!?

――ありがとうございます。一点、個人的にすごくお聞きしたいことがあります。2012年の現役引退後、NPO法人の理事長に就任され、『新しいはだしの文化の創造』を提唱されました。この提唱はグリーンインフラ事業に通じるものを感じます。

朝日:そうですね。私はビーチバレーという砂浜を利用するスポーツをやっていました。非常に自然環境に近い所でスポーツをやっていたので、環境に対する意識は自然に芽生えましたし、引退後の活動につながっていったわけです。浜辺、砂浜、そういった地域の自然環境・資源はスポーツだけにとどまらず、さらに幅を広げていくと、地域のレクリエーションや観光資源といった多様な機能の活用を全国で展開していく活動をしていました。そう考えると、非常にグリーンインフラの考え方には通じるところもあると思います。

NPOで活動させていただいた浜辺は、国の直轄事業で整備した海岸が主でした。つまり、国主導で造った護岸、海岸整備事業の後に、どのように地域の皆さんの利用に移行していくかをNPOが担うことが主な役割でした。そこでスポーツを定期的にやるとか、地域の皆さんを巻き込んで、ビーチ資源を再認識していただく、その後、活用していただくというような活動でした。私自身、そういった活動から、経験というか、素地があります。ですので、本当にこの間の表彰式の水辺だったり、森だったり、皆さんの活動は本当にイメージしやすかったと改めて思います。

――概念的にグリーンインフラにとても近い部分を以前からやってこられた中で、政務官が実際に印象に残っている、もしくは関わりがあったとか、そういったグリーンインフラ事業はありますか。

朝日:最近で言うと、グリーンインフラとはちょっと違いますけど、日本の自然環境資源で特に注目しているのは雪ですね。結構飛躍的ですけど。

――すごいですね。今、全く頭になかったワードが出てきました。雪ですか。

朝日:今のご質問をいただいて、何に関わっているか考えました。海辺などはずっと継続的に関わってきましたけれども、グリーンインフラという観点で地域資源の最大活用というか、地域の価値向上という中で、雪というものとどううまく付き合っていくのか。もちろん、一方で、見方を変えると地域の負荷にもなるわけですから、今回のノミネートには確かあまりなかったような印象でした。雪という資源を日本としてはどうとらまえていくのかは、ある意味、関わってきたというよりも、今、少し関わり始めているような観点かなと思っています。



グリーンインフラは新しい日本の社会資本整備の結束点になり得る。建設業界の皆さんにもぜひご協力いただきたい





――それでは最後の質問になります。グリーンインフラ事業に建設業は大きく関わりがあると思います。建設産業界へのメッセージをお願いします。

朝日:私は自分のことを『責任世代』と呼んでいます。両親がいて、子どもを育てる世代、そういった高度成長で日本を元気にしていただいた世代の皆さんからバトンをちょうど受け継いだ世代としては、ある意味、これまでの日本の産業モデルをいかに変革して、次の時代につないでいくのかということが大きなビジョンだというふうに考えています。

そう考えていったときに、建設業においても、グリーンインフラという、まだなかなかフォーカスできていない方針だと思いますけれども、そこはあえてチャレンジをして、日本の社会をもう一回再興できるようないいチャンスだと、私はこのグリーンインフラに関してそう思っていますので、ぜひともご協力いただいて、一緒に取り組んでいきたいと思っています。

官民連携プラットフォームの中でも、業界の皆さんからいろいろとご意見を届けていただけることになっていますので、先ほど言った数値化、定量評価という部分も、しっかりと政策の中に取り込んでいきますし、一方で、それを使うユーザーの地域の皆さんのお声もしっかりといただきながら、新しい日本の社会資本整備というものを、グリーンインフラがある意味いろんな結束点となって、いろんな人たちをつなぎ合わせる、巻き込むというような、そういった考え方でグリーンインフラには取り込んでいただきたいと思います。

――建設業も結束点になれる。すてきな言葉です。ありがとうございます。

朝日:ありがとうございます。

――本当に、弊社の読者である建設業の皆さんが、当然、経営もありますけれども、自然環境を生かす、SDGsにつながるような、そういった考えが当たり前になる未来を期待したいと思います。

朝日:そうですね。あとはもう一つ、木材建築です。これも少しグリーンインフラにつながるところがあって、公共建築物の木材利用というのは、今後、公共建築物に限らず、民間の建築物にも国内産をはじめ木材利用を推進していくことを進めていきます。この考え方はグリーンインフラにも通じるものがあります。こういった側面というものは、業界の皆さんも非常に応援をいただきたいなと思います。

――ありがとうございます。きょうはお話を聞かせていただく中で、地域の持つ資源、自然環境の観点からもいろいろあることを学ばせていただきました。まさか雪がくるとは思いませんでしたけれども。

朝日:私も言うとは思っていませんでした。想定外でした(笑)。

――大変ありがとうございました。

朝日:またぜひ、よろしくお願いします。

(了)

PROFILE
朝日健太郎(あさひ けんたろう)参議院議員
1975年熊本県生まれ、鎮西高校在学中に日本代表招集。以来、法政大学在学中、サントリー在職中にわたり日本代表として活躍。2002年ビーチバレーボールに転向。北京五輪、ロンドン五輪に出場し、日本男子史上初の勝利を挙げる。引退後、NPO法人理事長に就任。NPO活動や講演、メディア出演などを通じてバレーボールの普及や青少年の育成に取り組み、2016年に東京都選挙区より参議院選挙に出馬し初当選。2020年より国土交通大臣政務官(災害対策関係施策、不動産・建設経済、水管理・国土保全、住宅、鉄道、気象関係施策)。



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