横断的な連携でグリーンインフラ推進を牽引

インタビュー 企画

■グリーンインフラ特集
横浜市グリーンインフラ大賞優秀賞を獲得した「旧河川敷を活用したグリーンインフラの取組み」に迫る

横断的な連携でグリーンインフラ推進を牽引



横浜市のこれまでの取組み

横浜市では、平成17年度に緑政局・下水道局・環境保全局の3つの局が再編され、現在の環境創造局が誕生した。平成18年度には、水と緑が一体となった豊かな環境を創造していくことを目的に、水と緑の基本計画をまとめた。これまで、グリーンインフラという概念が生まれる前から緑の機能、水の機能に注目した取組を進めてきた。
近年、国がグリーンインフラを提唱する中で、市の総合計画である横浜市中期4カ年計画の中に、ヒートアイランド現象や雨水の浸水に対して自然の機能を活かしていくことを目的に、グリーンインフラの活用を盛り込んだ。局地的な大雨に強い都市づくりを目指し、気候変動に対する適応策として活用されている。具体的には、グリーンインフラの活用が横浜みどりアップ計画では、緑地の保全や公園の整備に、一方下水道の中期計画では、浸透施策として位置づけられるなど、グリーンインフラに関する様々な取組が展開されている。


これまでの取組みを順序立てて語る岩間氏



今回のグリーンインフラ大賞優秀賞に選出された所以

■旧川の活用で地域課題を解決

「対象地域の持つポテンシャルの高さを上手く活用できたことが評価されたのでは」と話す横浜市環境創造局下水道管路部管路整備課長の黒羽根能生氏。旧河川敷における衛生面の改善と浸水対策に向けて住民と協働で策定した取組みが、第一回グリーンインフラ大賞の優秀賞に輝いた。この取組みに至った背景としては次のとおりである。

帷子川の河川機能の移動により、現在整備中の旧川は神奈川県との協議で廃川が決定した。河川整備が終わると、もともとの川としての機能は廃止されるが、一般下水道として水路の形態は保っている。そこに、不法投棄をされたり、雑草が生えたり、害虫や悪臭が発生するなど、河川の草刈りや不法投棄の掃除に維持管理費がかかっていた。また、地域の議題に上がることもあり、横浜市がワークショップを開催し、周辺住民との話し合いを重ねた。川の機能が移ったとはいえ、旧川には雨水排水としての水路としての機能は残っている。そのため、もともとの構造や既存の機能はボックスカルバートを埋めて維持し、その周囲の埋戻しに、雨水を浸透させやすい雨水貯留浸透基盤材を敷き詰める。敷き詰めた上は緑道を敷き、樹木を植えることで、大雨の際に浸水を防ぎ、貯留した雨水を樹木が吸い上げる。結果として涼しい空間を創出する効果が期待できるという結論に至った。

雨水浸透機能の施工イメージ1


イメージ2


帷子川が流れる旭区


整備前と後の様子



■横断的な連携の背景にある部署のメリット

周辺住民と協働で策定したイメージを、実行するにあたり、グリーンインフラの多機能性を具現化させた地域建設業の支えも見逃せず、創意工夫で取り組んだ姿勢が今回の優秀賞に繋がっていると感じる。
この取組みでは、河川の除草による維持管理費や老朽化した護岸等の修繕費削減といった様々な課題をクリアすることができたが、背景には、横浜市という組織内での横断的な連携が大きい。秘訣は「企画・設計段階で各部署のメリットを生み出せたこと」だそうだ。


メリットを語る黒羽根氏

グリーンインフラを掲げたことで下水道や公園事業を扱うそれぞれの部署の思惑が一致、意思統一がスムーズなため、現場の行政区にも落とし込みやすかったそうだ。この仕組みこそが最大の特徴であり、他の地方自治体において模範になるのではないかと黒羽根氏は語る。
また、横浜市はグリーンインフラという観点で見た時に整備がしにくい立地である。他市と比べて市街化調整区域が虫食い状態に点在しており、旧米軍基地の接収地が存在するなどしている。そういった一見ポテンシャルがなさそうな場所に多機能に渡るグリーンインフラを整備し、活路を見出した点も評価されたのではないかと考察する。




今後の展望

■本来機能の回復で持続可能な街づくりを

今回の取組みが導入された帷子川(かたびらがわ)の整備は平成26年から開始され、全長2kmあるうちの上流一部区間が完了している。そのため、予定している令和10年の施工完了まで、引き続き同様の施工技術で整備を継続していく。
また、グリーンインフラで維持管理面の課題を解決していくのと並行して、安全安心という観点においても計画的に推し進めていく。下水道の整備水準を超えるような大雨が降る際、少しでも被害を軽減するために、どのような場所に浸透・保水させるような機能をもたせるといいのかということを戦略的に考え、公園以外の公共の広い面積のエリア内にも浸透機能や緑を重点的に取り入れるなど、面としてグリーンインフラを投入していく。安心安全を確保しつつ、景観や生物多様性にも配慮することで、自然の持つ多くの機能を活用し、多様な機能を引き出していくことを目標に展開していく。
「グリーンインフラの活用は生み出す機能だけではなく、川や地面、緑といった地球本来の持つ機能を回復させている。そこが他の整備とは違うところであり、特殊性を持つ部分である。自然が持っている機能を回復させることは、SDGsにも繋がっていく」と黒羽根氏は話す。グリーンインフラを広め、自然が持っている機能を回復させていくためには、一筋縄ではいかない部分が多く、定量化や効果の数値化といった様々な課題もあることから、現状はなかなか難しい。しかし、難しいからといってやらないわけにはいかない。今後もそれぞれの部署で抱えている課題を出し合い、グリーンインフラを使って、解決へと導く。難しいなりに、幅があるなりにも継承し、試行錯誤を繰り返しながら推進する。それが横浜市の持続可能な街づくりの構築に繋がっていくのではないか。


お話を伺った横浜市環境創造局の方々

           林さん 黒羽根さん 岩間さん 大庭さん 井上さん



グリーンインフラに対する想いを約1時間半じっくりと語って頂いた。
横浜市として、災害に強い魅力的な街づくりを目指す想い、また、今後さらにグリーンインフラの推進を先導していくという使命感と熱意が、話を聞いた担当者全員の眼力に帯びていた。

【参照】
横浜市中期4ヵ年計画(2018~2021).pdf
横浜みどりアップ計画(2019~2023)計画書.pdf  概要.pdf
下水道事業中期経営計画2018.pdf



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