「ふるさとの杜再生プロジェクト」でグリーンインフラ大賞、最優秀賞を受賞。宮城県仙台市へインタビュー
第1回グリーンインフラ大賞「防災・減災部門」で、最優秀賞の国土交通大臣賞に輝いた宮城県仙台市に取材を行いました。
今回受賞された「ふるさとの杜再生プロジェクト」では、植樹会や育樹会を通して市民・企業・NPOをはじめとする地域の人々のつながりを構築した点が評価されています。
昨年2020年に、植樹を中心とする第1期の活動(2011年~2020年)が終了し、2021年からは木を育てる「育樹」を中心とした活動を予定しているそうです。
仙台市市役所百年の杜推進課の和泉麻里子係長と神名川俊英主任に、ふるさとの杜再生プロジェクトの活動内容や印象深いエピソード、今後の目標、そして「杜の都・仙台」としてグリーンインフラについてどう考えているのか?など、たくさん語っていただきました。
宮城県仙台市「ふるさとの杜再生プロジェクト」に迫る
植樹会に参加する子どもたちの様子
市民一人ひとりの手で「ふるさとの杜」再生へ
――第1回グリーンインフラ大賞の最優秀賞受賞、おめでとうございます!今回受賞された「ふるさとの杜再生プロジェクト」の概要を教えてください。
ふるさとの杜再生プロジェクトは、東日本大震災の津波により失われた市内東部地域の沿岸部のみどりを、30年という長い月日をかけて「海岸防災林」として復興する事業です。
このみどりを市民一人ひとりの「ふるさとの杜」と捉え、被災した場所に苗木を植え、その木を大きく育てて再生に取り組んでいます。震災の教訓・記憶、そして復興の記録として、様々な立場の人々の協働により次代につないでいくメモリアル事業として2014年から始動しました。
――このプロジェクトがスタートしたきっかけは何でしたか?
「杜の都・仙台」には、豊かで広大な自然環境が身近に存在し、それらは私たちの暮らしやまちの環境をより豊かなものとしています。
しかし、2011年3月に発生した東日本大震災の津波により、それが一瞬でなくなってしまいました。
全国から寄せられる様々な支援を受け入れるため、2014年から関係者を集め準備を始め、プラットフォームとして翌年に「仙台ふるさとの杜再生プロジェクト連絡会議」が結成されました。
地域住民・地元企業・復興支援団体・NPO・海岸林の所有者である仙台市が連絡会議のメンバーとなり、各団体の強みを生かしながら協力してこのプロジェクトを進めています。
――このプロジェクトでつくる「海岸防災林」と、震災前にあった「海岸林」は、どういった違いがあるのでしょうか?
元々の海岸林は、1600年頃、伊達政宗の時代に地元の人たちでつくりあげたという記録があります。その頃は、例えばマツの葉を集めて燃料をつくったりなど、人々の生活に密着したみどりの使い方をしていました。
減災効果はそこまで認識されておらず、東日本大震災の津波によって海岸林は倒れてしまいました。
しかし、震災後に調べてみると「海岸林の根がもう少し深ければ、減災の効果があったのでは」ということがわかりました。今は、地下水から2mほど盛土をしてから植えるようにしています。
これが津波を意識した「海岸防災林」の考え方です。
「ふるさとの杜再生プロジェクト」第1期の活動を振り返る
仙台ふるさとの杜再生プロジェクト連絡会議の様子
――まずは、第1期の活動お疲れさまです。これまでの活動を通して、大変だったことや印象深いエピソードはありますか?
植樹会を行う際は、200人~300人という規模で市民の方々に来ていただき、苗木を植えて参加された方には非常に達成感があるのですが、 実は植えた後が大変で、苗木を枯らさないよう草を刈り、ツル類が苗木に絡まると枯れてしまうため 1 本 1 本手作業で除去しています。
時には夏の暑い季節に職員有志で汗をかきながら行ったこともありました。
海側にクロマツを、陸側にコナラやクリ、ヤマザクラなどの広葉樹を植えることとしていますが、植栽した苗木の生育状況は樹種により差があることがわかりました。抵抗性クロマツ、ヤマハンノキ等は生育が良好である一方、サクラ類は活着があまり良くありません。
原因としては海からの潮風や乾燥と考えられます。 今後海側のクロマツや周囲の樹木が育ち、防風の役目をするため、タイミングを見てサクラ類の補植を行っていきたいと考えています。
――毎回の植樹会や育樹会で200人以上集まるのはすごいことだと思うのですが、参加者を増やすための努力は何かされているのですか?
要因として、市民の方々に認知され始めたということと、沿岸部に暮らす方々や復興支援団体等の強力なサポートがあります。地元町内会を含めた連絡会議メンバーなどのネットワークをもとに、学校関係や地域の企業などの参加が増えてきていました。
連絡会議として、これまで関心のなかった市民や企業などにアプローチを行った結果だと思います。
――連絡会議のメンバー内には地域建設業も含まれていると思いますが、どういった関わりがありますか?
連絡会議メンバーには「守屋木材(株)」がおり、苗木の調達や植樹作業等の助言を得ることができました。
また市内で発生する剪定した街路樹の枝をチップ化し、グループ会社である「守屋運輸(株)」経由で苗木を植える際のマルチング材としてご提供いただいております。 その他「(株)橋本店」「伸和興業(株)」「(株)青葉環境保全」より、苗木や資材のご提供をいただいております。
メンバーには復興支援団体「花と緑の力で 3.11プロジェクトみやぎ委員会」の肩書で、「(株)泉緑化」の鎌田社長がおり、復興支援関係で被災された方々とのネットワークを持っています。
――プロジェクトを進めていくには、地域建設業を含む連絡会議メンバーの協力が大きかったということでしょうか?
連絡会議メンバーの協力があるからこそ活動できています。
我々だけだと知識や経験が限られてしまいますが、木の植え方一つでも意見が合わなかったりすると皆さんしっかりとした知見をお持ちなので「こうするのがベストですよ」とアドバイスをくださることも多いです。
会議は毎回2時間の予定ですが、3時間くらい話してしまうほど内容が濃く、植樹会等の企画や今後の活動における財源確保についての話など、皆さんが積極的に発言しながら進めています。
今後は「活動の仲間を増やしてプロジェクトの輪を広げたい」
――グリーンインフラ大賞受賞後の感想、その後の反響など教えてください。
授賞式やパネルディスカッションを通じて、改めてすばらしい賞をいただいたと感じています。これまで多くの人の関わりにより行ってきた活動が客観的に評価されてうれしく思いますし、今後の活動も鋭意進めなければと思います。
地元の新聞や機関誌での大賞受賞の掲載がありましたが、賞を取るというよりは活動を広めていく、皆さんに知っていただくきっかけづくりが目的でしたので、今回の受賞はゴールではなく、東部地域のみどりの再生に向け、引き続き活動していきたいです。
――今年(2021年)からは第2期が始まると思いますが、目標を教えてください。
木を育てる活動を「育樹」と呼んでいますが、ここに関わる人を増やしたいと考えております。
それは木を植える活動に比べ地味な活動で、除草や剪定は年1回以上定期的に行う必要があります。 今後、市民を始め企業や団体に活動参加を促す営業を行う予定です。
苗木の生存率については具体的な目標を設けるのは難しいですが、活動への参加人数を今後の10年間で2000人といたします。
――具体的には、どういった方々をプロジェクトに巻き込みたいですか?
東日本大震災で津波の被害に遭った方々が集団移転した跡地を民間事業者が借地し、体験型観光果樹園やドッグランなどの事業で活用され始めています。 「活動の仲間を増やすこと」として、これらの跡地利用事業者とプロジェクトとの活動連携を模索しています。
また、市内の小学校児童や沿岸部で活動している企業・団体と活動連携したいと考えています。市民の認知度を上げることを考え、小学校の授業として活動してもらうことを想定しています。
今後は、これまで関心のなかった(知らなかった)方々へ活動をアピールしていきたいです。
企業・団体に関して具体的には観光果樹園を運営している事業者や社会連携を模索しているプロサッカーチーム「ベガルタ仙台」など様々な分野の方々を巻き込み、このプロジェクトを広げていきたいと思います。
令和3年度 育樹会年間予定(画像クリックすると拡大します)
「ふるさとの杜」を次世代に伝えていくために
――プロジェクト終了後(2040年以降)の展望について教えてください。
プロジェクトでは第3期を再生した海岸防災林を活用する期間としており、植えた木々が成熟しており、その「杜」を散策や森林浴、生き物の観測などレクリエーションの場として市民の方々に利用してもらう考えです。
プロジェクト終了後は第1期で植樹した子ども達が子育て世代になっており、お子さんを連れて利用してもらえればと考えています。
――この「ふるさとの杜」を次世代に伝えていくには、何が必要でしょうか?
次世代に伝えるためには、記憶や思い出となるような体験をしてもらうことが必要です。
参加者に「また来たい」「勉強になった」と興味・関心を持ってもらえるよう、「楽しい」「面白い」と思ってもらえるプログラムを提供していきます。
これまで行った中では昆虫採取・解説や石鹸皿づくりなどのクラフト工作、ハンモック体験などが好評でした。
グリーンインフラの強みは「多くの機能を発揮できること」
取材に応じてくれた百年の杜推進課の和泉係長(左)と神名川主任(右)
――防災・減災やグリーンインフラについての考え方をご自由に聞かせてください。
2011年3月の東日本大震災では、海岸堤防を乗り越えた津波のより沿岸部の集落に甚大な被害を受けました。
仙台市では今後の津波被害を最小限に抑えるため、複数の施設で津波を防ぐ「多重防御」の考えを取り入れました。 「多重防御」では、グレーインフラである海岸堤防、かさ上げした県道塩釜亘理線、仙台東部道路の各施設が位置付けられ、その中に海岸防災林がグリーンインフラとして位置付けています。
海岸防災林は非常時には津波減衰の効果を期待していますが、平常時は海からの風や砂を防ぐグリーンベルトとして集落を守り、また生き物の住みかとなり、生き物観察を行う教育の場としても活用されることで、防災・減災だけではなく多くの機能を発揮できることがグリーンインフラの強みだと考えています。
――仙台市は「杜の都」として、グリーンインフラにとても力を入れている印象ですが、このプロジェクト以外にも進めていることはありますか?
仙台市みどりの基本計画というまちづくりの総合的な計画を策定しています。(本計画では緑を幅広く捉えていることから、ひらがなで「みどり」と表記します)例えば、みどりによる雨水対策の推進や都心部の建築物における質の高い緑化の創出等が挙げられます。
今までは、街中にみどりがあるから「杜の都」と言われていましたが、今後はグリーンインフラを意識して「どうあるべきか」「何の機能を果たすのか」ということを議論しながら、ステージの上がった「杜の都」を目指していきたいです。
取材後記
仙台市は「杜の都」と言われており、遥か昔からみどりとの関わりが深い街です。また、震災前からも地域の団体活動が盛んだったとのことです。
杜の都という仙台市の強み、地域のつながり深さ、そして皆が共通して抱える震災復興への想い―
色々な要素が重なって、今回の「ふるさとの杜再生プロジェクト」がここまで成長したのだということがわかります。
特に、連絡会議というプラットフォームの存在がこのプロジェクトの中心となっていますが、年6回の会議以外にも、困ったことがあれば頻繁に電話やメールでやり取りをするなど、連絡会議内でのつながりも深いとのこと。
また、連絡会議はグリーンインフラ関連の問い合わせ窓口としての機能も果たしているので「何か支援や活動したいけど、どうすればいいかわからない」といった方々の声もしっかりと拾いあげることができています。 こういったプラットフォームづくりは、他の自治体でも参考になるのはないでしょうか。
ふるさとの杜再生プロジェクト開始から10年。
第1期の植樹会に参加された子どもたちからは「楽しかった」との声が多くあるそうです。
震災を知らない子どもたちに継承していくことはとても大切です。
そのためにも、「活動を継続できるような仕組みづくり」が今後の課題となります。
補助金をはじめとする制度等の充実についても、グリーンインフラ実装化のカギとなってくると感じました。
仙台市は「みどりの基本計画」を策定し、市内全体でグリーンインフラを推し進めていこうと努力している最中です。ぜひ、今後の動きにも注目してみてください。