「事業承継」をカル~イ感じで勉強してみた NO.12
事業承継の手段 株式の種類
事業譲渡の準備段階として、社長さんの認知症対策を検討しました。
事業承継に必要な会社の健全性も確認できて、後継者の合意も取り付けました。
株式の移転のための費用も目途がつきました。
でも、事業承継をした後でも、まだ少し心配だから少しでも影響力を残しておきたいと思う事もあるでしょう。
株式の性質を利用をすれば、それも可能です。
属人的株式・単一発行株式・種類株式で、4人が頭を悩ませます。
今日のテーマ 「事業承継の手段 株式の種類」
タヌちゃん、おかげさまで、信忠と一緒に(有)安土桃山を調査して、親族承継の形式で信忠に事業譲渡をする事になったよ。
それは良かったね。コン田ちゃんも楽隠居ができるね。
そうなんだ。でも、まだ少し心配なんだよ。事業承継をした後でも会社に何事かあれば、「いざ、鎌倉」と、自分が出ていく方法を残しておく事はできないかな。
あるよ。それは、事業承継する株式に細工をしておくのさ。細工と言っても、悪い意味ではないよ。株主総会の了承を経て適法にするんだからね。
それは良いね。その方法も教えてくれないかな。
属人的株式って、何だい?
株主の権利について何ら制限を受けない基準になる株式の事を「普通株式」と言うのだけど、これとは別に「属人的株式」と言う株式を知っているかい?
ゾクジンテキカブシキ?難しいね。聞いた事もないよ。
属人的株式と言うのは、株主平等原則の例外で、非公開会社に限って、定款で定めれば、株主毎に、次の①②③に異なる定めをする事ができる株式なんだよ。
① 剰余金配当権
② 残余財産分配権
③ 株主総会の議決権
これは、株主という特定の「人」にのみ属する特権なのです。
それで、「属人的」株式といいます。これを使う事で、議決権を確保し金銭も確保できるのです。
これは定款で定めるのだね。
その通り、定款で定めるんだ。定款変更になるけど、通常の定款変更の特別決議ではなくて「特殊決議」が必要だよ。
普通決議
定足数=決議可能株主の議決権の過半数
決議要件=出席株主の議決権の過半数
特別決議
定足数=決議可能株主の議決権の過半数
決議要件=出席株主の議決権の3分の2以上
特殊決議
定足数=総株主の半数以上
決議要件=総株主の議決権の4分の3以上
コン田ちゃんは100%株主だから、決議要件は心配いらないね。
属人的株式の使用例
ところで、具体的にはどういう事ができるの?
事業承継で言えば、株主総会の議決権で、異なる扱いをする事だね。
例えば、発行済株式総数が100株だとしたら、 ①(有)安土桃山の株価が安い時に、99株を信忠君に贈与します。贈与税がゼロの時にです。
そしてコン田ちゃんは1株を持ちます。そして定款で、「コン田信長が保有する株式は1株につき500議決権を有する。」と定めておくのです。
そうしたら、コン田ちゃんは1株の保有で株主総会を支配できるし、その後、もしも株価が上がっても1株の譲渡なら贈与税も高くないですからね。
それ、よいね。
②逆に株価が高ければ、1株だけを信忠君に贈与して、そして定款で「コン田信忠が保有する株式は、株主コン田信長に以下の事由が生じた時に限りその保有株式1株につき500議決権を有する(認知症・事故・病気・精神上の障害により判断脳威力が喪失・行方不明・その他株主総会に出世して議決権を行使できない時)とか、条件を付けておけば良いですね。
そうしたら、信忠君は、1株の贈与を受けるだけで足りるし、もしも信ちゃんが認知症になれば、500議決権を行使できることになります。
それは面白いね。贈与税が安く済むからね。
ただし、「属人的」と言うようにこれは株式の性質ではなくて「人」の性質なんだ。だから、属人的株式を別人に譲ってしまうと普通の株式になってしまうので、500議決権ではなくて普通の1議決権になってしまうからね。あくまでも「人」の属性なんだ。
属人的株式のデメリット
デメリットはあるの?
属人的株式は、定款に記載するだけで、登記は不要なんだ。それは便利な点ではあるけど、公示できない点で、不安定さがあるね。
属人的株式の設定には、特殊決議が必要な点も要件が厳しいね。それに、税務上の評価方法が必ずしも固まっていないので、導入する場合には税務の専門家に相談する必要があるね。
なるほど。普通株式1株なんだけど、Aさんなら500議決権、Bさんだと1議決権に戻る。つまり、無色透明の葡萄だけど、赤いグラスのAさんが持てば赤い葡萄になり、透明なグラスのBさんが持てば元の透明な葡萄に戻るという事だね。
イタチちゃんは、うまく表現するね。そうしたら、元々赤色の葡萄だったら、誰が持っている場合でも赤い葡萄のままだという事だよね。そうしたら、元々赤色の葡萄に当たる株式はないのかな?
あるよ。要するに、株式それ自体に色が付いているという事だよね。
その会社の全部の株式に、透明ではない何色かが付いているのが、①「株式の内容についての特別の定めのある株式=単一発行株式」で、
その会社に複数の種類が発行されていて数種類の色が付いているのが ②「種類株式」となります。
単一発行株式は使えないかも?
株式自体の特性だから、誰か別の人に移転しても、その株式の特性は失われないんだ。その点が属人的株式とは違うよね。
それは会社の全部の株式に付いているのだね。
株式自体の特性だから、誰か別の人に移転しても、その株式の特性は失われないんだ。その点が属人的株式とは違うよね。
単一発行株式とはどんな内容なの?
それはね、次の3種類があるんだ。
これは定款で定めて、「発行する株式の内容」として登記をする必要があるんだよ。
事業譲渡にどのように使えるのかな?
個人的な見解だけど、全部の株式の特徴になるので、ピンポイントに事業承継の役に立つとは言いにくいかもしれない。
でも、全部の株式に譲渡制限が付いていれば、会社の意図に反する株主への移転を排除できるので、一族で株式を支配する事ができるね。だから、株式を後継者に移転・集中させやすくなるよね。
取得請求権や、取得条項が付いていれば、会社に株式を集める事ができるので、他の株主を排除した後に、後継者に株式を取得させる事は容易にできるよね。
種類株式は使えるね
やっぱり、株式の一部だけを変えられる「種類株式」の方が、事業承継的には使い易いと思うね。これには9種類あって、株式の内容として、登記されるんだ。
種類株式を新規で発行する時は、株主総会の特別決議が必要だよ。
もしも、既に発行されている普通株式を種類株式に変更するためには、①会社の同意+②転換を希望する株主の同意+③他の全株主の同意」が必要なんだ。簡単な一覧表を作っておくね。
これはまた、難しいね~(>_<)9個の種類株式の、事業承継の方法としての使い方がわからないな。使い方を簡単説明してくれないかな?
「譲渡制限付株式」
例えば、株式数の4分の3はオーナーの一族が持ち、一族の株式だけは、譲渡制限付にします。 そうすれば、一族の株式は一族だけで囲い込めるから、一族間での事業承継を考える時にやりやすくなりますよね。 ただし、一部の株式だけに譲渡制限のある会社は、「公開会社」になります。そうすると、取締役会設置義務等の会社の体質が変わるので、中小企業の事業承継を考えるときには慎重に使う必要があると思います。
注意事項としては、特例有限会社の譲渡制限規定は法律が定めた事なので、会社が変更する事はできません。もしも変更したかったら、先に株式会社に商号変更をする必要があります。ちょっと費用がかかりますけどね。
特例有限会社は、そのままでは譲渡制限規定の表現を変えられないのだね。
「議決権制限株式・剰余金配当優先株式・残余財産分配優先株式」
例えば、子供に長男と次男がいて、長男を後継者として事業承継させたい時を考えてみましょう。個人資産の多くが自社株式だとしたら、長男だけに株式を相続(遺言)させると、次男の遺留分が侵害されてしまいます。 そうだとしたら、普通株式と議決権制限株式の2種類の種類株式を作って、次男には議決権制限株式を相続させます。
そのかわり、次男の株式の内容に剰余金配当優先・残余財産分配優先を付けておけば、不満も少なくなるのではないでしょうか。
なるほど、議決権がない分、オプションを付けるという事だね。
「取得請求権付株式・取得条項付株式」
中小企業の場合には、株式を流通させるマーケットがありません。 株式を売りたいという人は、後継者に売るのでなければライバル会社に売ることになってしまいます。次男が株式を相続した時に、換金したくても、簡単には売る事ができないのです。その時に、株主からの主導で買い取り請求ができれば、次男としては株式を取得しても安心ですね。
会社としても取得条項の条件を「株主の死亡」にしておけば、事業承継に協力的な次男の死後に株式が分散する事を防止できるから安心ですね。
確かに相続が絡んで、株式が分散しそうなときには、もう一度オーナーの一族に株式を集中させる方法として良いよね。事業承継に役立つね。でもさ、株価が高かったら、買い戻すのも大変だよね。
そうなんだよね。そういう意味では、費用がかからない家族信託は良いよね。
「拒否権付株式」
これは事業承継をした後に、後継者の新社長の行動を止める機能がある株式です。例えば、合併・会社分割の組織再編行為・事業譲渡・1億円以上の借入行為については、普通株式の株主総会の他に種類株主総会の決議を要する、とするものなのです。拒否権付株式を1株だけ作って、前社長が保有しておけば、後継者は必ず前社長の承認が必要になります。
ただし、前社長が別の提案権を持つわけではないからね。後継者の決断に拒否をするだけなのですが、これはとても強力な権利です。登記簿に記載されて、取引先も当然に知ることになるので、現社長の裏で前社長が実験を握っていることが知られ、場合によっては後継者の実力に疑問を感じさせる危険もあります。だから、使う場合には要注意ですね。
そうか、後継者には、前社長がアドバイスをしてくれる心強さがあるのだけど、自分の未熟さを取引先に伝えるようなものだから、逆に後継者の行動や決断を妨害してやる気を削ぐ危険もあるのだね。
そうなんだ。これに対して、株式を家族信託で移転して、「指図権付」にしておけば、拒否権付株式と同じ機能を得られる上に、登記がされないから取引先にも疑念を抱かせないし、別の種類株主総会を開く面倒もないんだ。
なるほど、タヌ川ちゃんは、家族信託が好きみたいだね(笑)
「役員選解任権付株式」
株式の大きな機能は人事権だと言われています。
取締役・監査役の役員人事権を持つ種類株式を1株だけ前社長が持っていれば、後継者を監督する事ができるのです。
ドラマでも、社長交代劇で、「動議!社長の解任動議です!」なんて言って、社長がビックリしているシーンがあるよね。そういう人事権だね。
そういう事だね。でも、先にも言ったけど、単一発行株式や種類株式の場合は、登記簿に記載がされて、分かりにくい複雑な事情のある会社だと疑われかねないから、慎重に使う必要があるよ。
やっぱり種類株式は難しいね。
「M&A」
事業承継の最後の話として、M&Aがあります。特別な事のように思えますが、要するに、親族承継や従業員承継ができなかった時に第三者に、株式を譲渡する事です。
その前に会社の規模を小さくするために、分社化をすることもありますね。分社化の方法には、会社分割や株式移転、株式交換を使う事もあります。人間の場合の相続による移転に当たる方法としては、合併がありますね。
でもさ、株式を第三者に移転するという事は、社長がステージから降りるという事だよね。第三者に移転するのだから、商号が残るとは限らないし、場合によっては解体されて売却されることもあるという事だよね。もちろんそれには文句も言えないし。
売却するのだから、当然にその先の経営判断には、口出しはできないよね。
そうしたら、M&Aでお金をもらうのも、自主廃業して清算したお金をもらうのも、ステージを降りる社長には同じなのじゃないかな。
実は、自主廃業する時には「清算価値」を調べるのだけど、「清算価値」は結局、誰かに資産を売却して得られる金額の事なんだ。事業承継を考える時にも健全性を検討して、その価値は調べてあるから、M&Aも自主廃業も換金すると言う意味では同じなんだよ。
あえて違いを言えば、自主廃業の場合は、売掛金とか工場とかの個別財産の価値だけど、M&Aの場合は全体としての総合財産の価値になるから、若干金額が高くなる点だろうね。
ただし、成功率は5%くらいのM&Aの成功を待っている内に負債が増えてしまうし、雇用継続の問題も考えれば、どちらが良いのかは判断しにくい所だよね。
やっぱり、ステージを降りる社長には多少の違いなのかな。
もちろん、会社の持っていた特別な価値や技術を後世に残すという事は大切な事なんだけど、得てして社長が自分の会社を過大評価しているだけ、という事もあるからね。あくまでも会社の価値を評価するのは買い手側だからね。
M&Aでは難しいけど、親族や従業員で承継できるなら、家族信託を利用する事を検討したいよね。
家族信託は事業承継にとって、便利な道具になるのだね。
もっと、家族信託を勉強してみるよ。
それでは、またどこかで、お会いしましょう。
小冊子「親と子供の未来を守る家族信託物語 認知症と「お金」の話」もぜひ読んでみてくださいね。