グルメ司法書士・梅先生のチョコっと舌鼓と司法相談アルアル【第12回】

経営/マネジメント

グルメ司法書士・梅先生の
チョコっと舌鼓と司法相談アルアル





司法書士、梅本先生による連載第2弾。
東京都内のランチが美味しいお店を紹介しながら身近な司法書士への相談アルアルを会話形式でやさしく解説していただきます。

今日のランチの舞台は「神保町ランチョン」。明治42年(1909年)創業の洋食屋さん。
ビアホールなので昼から生ビールが飲める洋食屋さん。従って、今日のメイン料理は、大好きな「ビール」です。
「ビールを注ぐことができるのは店主だけ」というこだわりの店。きめの細かい泡までが美味しい!オリジナルの洋食を頂きながらのランチビールは最高。

メンチカツ、ビーフシチュー、エビフライ、オムレツ、そしてビーフパイと一緒に頂く幻のウィスキーリプトン(飲めるのかなぁ?)。
歴史のある美味しいビアホールで洋食を頂くのは贅沢の極み。早く食べたい!今回もすごく楽しみ!

いつも最後は夢心地の梅先生。土曜日のランチタイム。果たしてどんなお話になるのか。 お楽しみに!




・梅先生
梅先生新宿区四谷で業歴約30年の司法書士
趣味は、神輿担ぎと草野球。どちらも終われば潰れるまでの酒盛り
お酒が大好きだけど、呑むと直ぐに寝てしまう、昭和生れの頑固オジサン

・ノリスケ君
梅先生の執筆を担当して3年目の編集者
自称グルメの大食漢。守備範囲は和洋中のオールマイティー




高齢者=認知症=後見 は間違い!高齢者は家族で守る(後編)



~前編の復習~
① 何歳になったら高齢者なの?

前編はこちらから!


② 誰に守ってもらうの?扶養義務でどこまでいけるの?




健康寿命を過ぎて認知症が心配になったら、後見制度や家族信託を利用するのですね。




ちょっと待って。必ずしも間違っているわけではないけど、まだ直結しないで欲しいんだ。そもそも、後見制度とか家族信託という仕組みは新しい考え方だよね。新しく制度ができるという事は、いままでの仕組みでは足りないから国が新制度を作ったという事だよね。




そうですね。




じゃあ今まではなぜ必要なかったのだろう?昔と今とで何が違うのだろうね?




少し前までは、3世代くらいの家族が1つの家で協力しながら同居生活をしていましたね。お祖父ちゃんが病気になれば、お祖母ちゃんも子供も孫も家族全員が、それぞれ自分の役割としてお祖父ちゃんの看病をしていましたね。我が家は今でも、誰かが困ったら近くにいる人がすぐに助けていますよ。




そうですよね。家族で支援できていたのです。




でも今は、核家族化して世代ごとの家庭生活が多いですよね。世代が違うと住む家が違うし生活地域が違ってくるので、相互の関係性が薄くなっていますよね。




だから今は、お祖父ちゃんが病気してもお祖母ちゃんだけで看病するしかないんだ。いわゆる老老介護だね。




でもお祖母ちゃんも高齢になっていると看病できないから、結局、家族以外の他人に支援してもらう必要が出てくるのですね。




そうだね。支援・介護をしてもらえる家族がいたり、家族だけで支援・介護ができるのであれば後見制度や家族信託は必要ないよね。




でも、家族だけでそれを解決できるのでしょうか?




ポイントはそこだよね。そもそも現代社会で「家族だけ」「他人の関与なく」生活をする事ができるのかな?例えば、




①お祖父ちゃんの財産について
・現金は銀行や郵便局という他人に預けていないか?
・有価証券は証券会社という他人に預けていないか?
・不動産は法務局(登記所)の登記制度という他人の制度を利用していないか?

②お祖父ちゃんの介護について
・治療をお医者さんという他人に頼まないのか?
・訪問介護看護という他人を頼まないのか?
・デイサービスや施設入居という介護サービスを業者さんに頼まないのか?



なるほど。生活の中には気が付かないうちに他人に頼んでいる事が多いのですね。




現代社会は「自助」と言いながらも他人の力を借りないと生活が成り立たないのだね。 逆に頼まれている他人の立場側からすればどうだろう?家族からの依頼とはいえ、本人自身からの依頼でなければ、本人に代わる法律上の「権限」を証明してもらわないと、コンプライアンスがとわれるこの時代に軽々には応じる事はできないですよね。




本人に代わる権限ですか?




そうです。原則は家族で守るのだけど、家族では足りない部分がある場合または独居老人のように家族がいない場合は、どうしても他人に依存せざるを得ない。他人に依存する以上必ず「権限」が問題になるのです。




高齢者を守るための「権限」が必要だという事ですね。



③ 当たり前の「扶養義務」から考える高齢者保護権限




その権限になるのが、後見制度や家族信託なのですね。




それは正しいのだけど、実は民法には「扶養義務」という制度があるんだ。
民法第730条:直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなくてはならない
民法第877条第1項:直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養する義務がある
という規定があるのだよ。




親は直系血族だから、子供には親に対する扶養義務があるという事ですね。




そのとおり。「義務」というけど義務を履行する子供側から見れば、第三者に対しては子供である自分に扶養する権利があると言えるという事だね。




昔から家族はお互いに守り合ってきた事ですから、あえて法律で言われなくても当然の事だと思いますけど。その扶養の内容は何ですか?




扶養の内容には大別して次の2つが考えられます。



経済的扶養 = 要扶養者に金銭を提供する扶養
身上監護的扶養 = 要扶養者の生活・療養・介護等に必要な事務処理をする扶養




なるほど。分類されたら分かりやすいですけど、やはり、昔からの親子の関係と同じですよね。
①経済的扶養義務 がある事を考えたら、金銭的な余裕がある子供であれば、自分の金銭を提供して親を守ればよいだけですよね。
親の財産は使わずに親の財産を凍結させて、一時的に子供が立て替えておいて、その立替分は相続の時点で相続人間で清算をすればよいだけですよね。




そうだね。 でも一時的にとは言え、親の経済的支出を100%負担できる子供は稀じゃないかな?やはり親名義の財産を使わざるを得ないのが実情でしょう。 そうなると「扶養」の問題だけでは対処ができなくなるので、親名義の財産を使う「権限」の問題になってくるわけです。そうすると、家族信託や後見制度を検討する必要が出てきますね。




では、②身上監護的扶養 はどうでしょう?子供が親の病院と契約する・施設と契約する等の身上監護は、民法の扶養でできる事になりませんか?昔からやっている事だと思うのですけど。




できると思うね。子供が親を守るためにする行為は、そもそも子供の行為として②の扶養でカバーできます。

例えば、親を入院させるための病院との契約は子供自身が契約者になれば良いだけですから。その後の支払については、誰のお金で支払いをするかの問題なので、①の問題になるだけだからね。




我が家の場合は、②身上監護 は同居の子供や孫がいるから、その者が元気でいる限りは心配ないわけですね。でも僕にはお金の余裕がないから、親のお金を使うためには「権限」が必要になります。




今はそれは普通の事だね。むしろ最近は、②身上監護 をする人もいないので、第三者に依存せざるを得ない状況が増えているんだよ。




ありがとうございます。我が家の事も整理ができました。







さて、ランチョンのランチビールもそろそろシメに入りましょうか!




実は頼みたいものがあるんだ。メニューにはないのだけど、「ウィスキーリプトン」というものがランチョンの裏メニューにあるらしいんだ。紅茶にウィスキーをいれたものなのだよ。店員さんに聞いてみよう。




大丈夫ですよ。お持ちしますね!




やりましたね!嬉しいです。




できる事なら、ウィスキーリプトンには、ビーフパイを添えて頂きたかったのだけど、今日はビーフパイがメニューから消えているので残念。代わりにバニラアイスクリームを頼んでおいたよ。






ウィスキーの香りがして良いですね。ビーフパイを食べられなかったのは残念でしたけど、次に家族で来る時の楽しみに取っておきます。




バニラアイスクリームも悪くはないよね。ごちそうさまでした。



【後見制度と家族信託】




ところで、高齢者の保護対策を考えるにあたって、後見制度と家族信託のどちらを使うかですけど、家族信託の受託者には財産管理権限はあるけど、身上監護権限がないところが若干不便だと言われますよね。




そうですね。理論上、家族信託の受託者には身上監護権限はありません。財産の管理制度ですからね。 でも、家族信託の設計時点で、受託者には家族が就任する事を想定して設計する事がほとんどです。

つまり、受託者は、受託者の資格としてではなく扶養義務がある家族として親の身上監護ができるのです。 通常は、家族信託に身上監護権がない事は、ご家族であれば心配しなくても大丈夫だと思います。 簡単な表にして整理してみましょう。



身上監護 財産管理
家族だけで守る 扶養でできる 原則できないので回避手段を考える
後見制度で守る できる
家族信託で守る できない (①ならできる)




身上監護については、まずは、①の家族だけでする方法だね。 これは可能ですね。親に対する扶養義務として生活扶助義務がありますからね。

例えば、入院手続・施設入所手続き・介護サービスの手続なども、子供の名義で処理ができますね。 ただし、支払いを誰のお金を使うかは、④の財産管理の問題として考えて下さい。




②の後見精度による場合はどうですか?




後見制度には、法定後見と任意後見があります。裁判所が選ぶか(法定後見)・事前に本人が選んでおくか(任意後見)で、細かい点に違いはありますけど、いずれも身上監護に関する「権限」が裁判所または本人から与えられるので、これはできますね。




③の家族信託ではできないのですね。




家族信託は、制度目的が受益者のためにする財産管理制度ですから、受託者による身上監護は法律が想定していません。




でも家族信託の設計段階で受託者が家族であれば、③ではできないけど、①の家族としてできるから実際には困らないという事ですね。




そのとおり。ただし注意して欲しいのだけど、家族信託と呼んでいるけど、これは法律的には民事信託の事なので正確に言えば、家族に限定されるわけではないんだ。




えっ?家族以外でも良いのですか?




実は、家族信託と呼んでいる制度は、信託銀行のように不特定多数人を相手に営業として継続的に行われる商事信託と対比して、家族のような特定人間でする民事信託の事なんだよ。

特に家族の認知症対策に抜群の威力を発揮するので「家族信託」とネーミングした団体があって、それが普及しているだけなんだ。だから、家族に限定されるわけではないんだ。




知りませんでした。家族だけなのかと思っていました。




だから、③の家族信託の身上監護はできないのだけど、そもそも受託者が家族でなければ、①で処理ができなくなるからその点は気を付けて下さいね。




財産管理については、後見制度の⑤に対いては「権限」があたえられているのだし、家族信託の⑥では、そのための制度ですから、できるのは当然ですよね。問題は家族でする財産管理の④ですよね。




そうだね。財産管理は原則として、「権限」が必要だと思って下さいね。




例えば、不動産はどうですか?




不動産には登記制度があるから、登記名義人以外は家族と言えども売買等の処分はできないね。ここは「権限」がどうしても問われる場面になるね。だから、後見制度や家族信託を検討する必要があるだろうね。




たとえば、預貯金はどうですか?凍結されると困りますよね。




そうだね。例えば、仮に君が銀行員だと仮定して、息子だと名乗る知らない人物が、お父さんの施設費用の支払目的で、お父さんの預金を1000万円を引出したいと言ってきたらどう対応する?




うわ~、困るな。知らない人でしょ?仮に知っている人だったとしても、もしもお父さんに黙って勝手に引き出していたら大問題になるし、それは引出しに応じた僕の責任問題にもなりますよね。そしたら、本人を連れてくるか引出の権限があるかの確認はしたいです。




そうだよね。既に今でも、銀行の窓口で大きなお金(金額は金融機関による)を引出す時には、窓口に来ている人に免許証等の本人確認書類の提出を要求されますよね。本人が窓口にいても確認がされますからね。しかも本人確認の時に、冗談でも「私、最近少し認知症だと言われたんですよ」などと言おうものなら、おそらく窓口担当者は顔を引きつらせて、後に座っている上席者を呼んで「後見人を連れて来て下さい」と言われるでしょうね。




そうかもしれないですね。




だからお父さんの施設費用のような大きなお金を、子供がお父さんのお金で支払う事はできないんだよ。もちろん、子供が子供のお金で支払うのは問題ないけどね。




でも、④には例外があるんですよね。




そうだね。あくまでも一時的な回避手段だけどね。



① お父さん名義のキャッシュカードを預かってカードで引出しする方法
※窓口に行かないから本人確認を要求されないけど、1日の引出限度額が金融機関ごとに異なり、50万円くらいの少額に決められているので1日で多額の引出はできない。 毎日50万円づつ引出しに来ていると、変な顔されちゃうね(笑)
キャッシュカードに有効期限が定められている事があり、再発行の時にはお父さんが出向かなくてはならないので、いずれカードが使えなくなる日が来る。キャッシュカードでの引出に指紋確認が必要な場合もあり、指紋確認機能が普及すると「カード+指紋」が必要になるので、家族によるカードでの引出はできない

② 金融機関には「代理人届」を事前に提出する方法
※代理人届にも有効期間があるので(1年間程度の短期間)期間を経過すると再度の代理人届の提出が必要になる。その時本人確認がされるのでお父さんが認知症だと、再度の代理人届の提出ができなくなる

③ お父さんの年金が振り込まれる口座を引き落とし口座に指定する方法(施設利用や継続医療費の場合)
※買物等の一時的な支払には対応できない

注意したいのは2021年2月18日に全国銀行協会から発表された高齢者との金融取引の指針なんだ。
これも例外になるからポイントだけ説明するね。

 ・窓口での認知症の判断方法
  診断書がある場合:本人との面談・担当医からのヒアリング  
   診断書がない場合:複数の行員による本人面談・医療費用の内容の確認 ・非対面ツーツの活用
 ・医療費の支払
  判断能力を喪失する前であれば本人が支払をしたであろう本人の医療費の支払については、
   本人の利益に適合する事が明らかな場合に限り親族の支払依頼に応じる

 ・ただしこれは銀行窓口での参考になる指針に止まるので、各銀行ごとに取り扱いは異なる。できない銀行もある
 ・基本は成年後見制度を原則とするから、原則は不可ということ 



なるほど、支払いを伴わない身上監護は、家族でできるのですね。でも普段の生活上で支払いを伴わない事はあまり考えられないですよね。しかも子供が立て替えたいと思っても高額になるとなかなかその余裕はないですしね。親も自分の老後の金銭的負担を子供におわせたくないので、老後の資金を貯めている事が多いですよね。そうすると親の老後資金を使うための「権限」が必要になるわけですね。

それが⑤後見制度や⑥家族信託という事ですね。




そう考えれば良いだろうね。そしたら、認知症=後見制度と固定的に考える必要はなく、認知症になっても慌てる事なく、まずは今まで通りで大丈夫な場面が多いのではないかな。




ところで、⑤と⑥の費用の件なのですが、⑥家族信託であれば、家族で財産管理ができるから費用は自分達で考えられるけど、⑤法定後見だと、裁判所が選んだ後見人で、裁判所が費用決定をするから、費用的な負担が大きいですよね。費用の点はどうにかならないのでしょうか?




いまのところ費用の点はその通りだね。専門職の第三者に後見人をお願いする以上は、仕事上の報酬が発生する事は仕方がないね。 ただし、2019年3月18日の厚生労働省の第2回成年後見制度利用促進専門家会議で最高裁判所が法定後見制度の運用について考え方を少し変えたと思われるものがあるんだ。

それは、今までは、親族後見人を原則認めていなかったのだけど、 身近に後見人にふさわしい親族等の支援者がいる場合には、この支援者を後見人に選任する事が望ましい。 つまり、今までは原則として親族は後見人になれなかったのが、親族からの希望があれば、概ね親族後見を認める流れに変わってきているという事です。




それなら法定後見制度を使っても、親族が後見人になれるなら、費用の問題は解決可能だという事ですね。




う~ん、まだ、運用変更の過渡期だと思っておいた方が良いね。
例えば、親族が後見人になれたとしても、裁判所から預貯金について後見支援信託を指示されると、預貯金を信託銀行に信託する事になるので、その費用は発生するよね。 しかも、事前の明確な基準がわからないんだ。だから、家族が後見人になれると思って後見の申立てをしたけど、なれなかった場合には、申立は取下げができないから手続が進んでしまう。そうすると専門職の法定後見人がついてしまうから、本人が亡くなるまで続くことになります。だから、まだ慎重に検討する必要があるだろうね。

現時点で言えば、元気な内に家族信託や任意後見も検討しておいた方が良いと思うね。法定後見の運用については、これからも使い勝手が良くなっていくと思うので、アンテナをはって情報収集をしておくのが良いね。




ありがとうございました。かなりスッキリしてきました!我が家では、親の身上看護は余り心配しなくても大丈夫。もしも、親が自分でお金の管理が難しそうになったら、家族信託や後見制度を説明して、今まで通りに、家族全員で守ってあげればよいのですね。




そうだね。ノリスケ君の家族は素敵なご家族だね。3世代で楽しい生活を続けて下さいね。

おや?お酒がなくなってきましたね。では、今日はこのへんでお開きにしましょう。 ノリスケ君、折角の神保町だから、ちょっとコーヒーでも飲みに行きませんか?昔からある「古瀬戸」という喫茶店に付き合って下さいな。




「古瀬戸珈琲店」1980年来、美味しい珈琲とケーキを提供

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