「事業承継」をカル~イ感じで勉強してみた NO.10

経営/マネジメント

事業承継の承継先


会社の健全性がクリアされました。

でも、事業承継が決まりません。中小企業で事業承継がなかなか進まない理由の1つ目は、社長さん自身に問題がある場合があります。

2つ目は、進まない最大の問題点である承継者を誰にするかの問題です。承継者が決まらないなら、そして誰でも良いなら、会社の売却(M&A)です。会社が健全であれば、売却は可能でしょう。

でも、M&Aの成功率は5%とも言われています。M&Aを待っているうちに、認知症や相続の問題に発展したら大変です。事業承継における社長さんの問題と承継者の事で、4人が少し難しい話をしています。




事業承継をしやすい条件



イタチ

タヌ川ちゃん、会社の決算書のお化粧落としが終わって素顔の綺麗な会社が見えたから、事業承継を進めたいのだけど、どんな会社だと事業承継がすすめやすいのかな?



タヌ川

そうだね~、いくつか挙げられているね。例えば…



1.会社の財務力に魅力があること。
例えば、不動産があるとかだね。これは、決算書を見ればわかることだよね。

2.会社に技術力・独自性・他社にない特殊性という、いわゆるオンリーワンがあれば、話は進めやすいよね。
ただし、汎用性がなければ、オンリーワンが逆に作用することもあるけどね。

3.社長のカリスマ性に依存していないことも一つだね。
承継者にそのカリスマ性を求めても、カリスマ性は承継できないからね。

4.法的に保護されている有用な知的財産権や許認可権を持っていることは大きな武器になるね。
許認可権は取得が難しいこともあるから、それが目的で承継したい人もいるよね。

5.最後に、社長の個人財産と会社財産が明確に分離されていることだね。
これは、決算書のお化粧落としの作業でできているとは思うけど、この点が不明瞭な会社は、他でも不明確な事が隠れている危険があるからね。




事業承継が進まない理由



イタチ

それじゃあ、逆に事業承継が進まない理由は何だろう?



タヌ川

中小企業で事業承継がなかなか決まらない理由の1つは、社長さんにも問題がある場合があるんだ。



イタチ

え?なんか怖いけど、教えてくれるかい?



タヌ川

それは、①社長の情緒的理由による決断力不足 があるよ。

「自分がいないとダメなんだ」とか、「会社以外にやる事が見つからない」とか「会社を離れるとなんか寂しい」とか、客観的理由がない場合だね。



コン田

アリャ~、ありそうだね。



確かに最初だけを見れば、先代の顔がある方がスムーズかもしれません。でも、最初は誰でも手探りで始めるものですよね。

先のことを考えての事業承継なのだから、早く手放して早く新しいカラーを出させてあげるべきだと思います。

社長の椅子を譲らずにいて、最後には「老害」とまで言われたら、晩節を汚したみたいで、かえって寂しいですからね。


タヌ川

②社長が会社を高く自己評価し過ぎていること もあるね。



サル富

自分の会社だから、高く評価をしたい気持ちはあるよね。




でも、一般的にも売り物の値段が高すぎれば買い手がいなくなりますよね。会社も同じです。

そして、高い評価に見合う高いレベルの承継者を望めば、候補者はどんどん減らざるを得ません。

もちろん、自分の会社を卑下する必要はないですが、客観的な評価基準を作って自己評価の甘さをある程度で押さえないと、まとまる話もまとまらなくなります。


サル富

うちの子供は、本当はもっとできる子供なんです~!みたいな話だね。



イタチ

サル富ちゃん、また、話をかき混ぜてるよ。ダメだよ!



タヌ川

③社長の家族が事業承継に反対すること もあるんだ。

家族(特に配偶者)としては、家庭の稼ぎ頭の社長が、仕事を離れるわけだから家計的には大問題だよね。



コン田

これは、結構ありそうな話だよね。



タヌ川

これは家庭内の問題なので、家庭内で話し合ってもらうしかないだろうね。

④社長が事業承継を後まわしにすること も多いのさ。



売り上げを伸ばすための積極的な戦略なら力も入るでしょう。

しかし、事業承継で自分が退陣するのだから、その話になると「とり合えず急ぎの仕事を先に」「めんどくさい」「なんか気乗りしないから後まわし」にしたくなる気持ちもあるかもしれません。


サル富

しかも、家族の反対がある場合は、内でも外でもストレスが溜まるから、「後まわし」にしたくなるよね。



でもそうはいっても、事業を次につないでいくことも社長さんの大事な仕事として考えなくてはなりません。

後まわしは良い結果にはならないのです。


イタチ

あらら~、なんか耳が痛いね。でもこれを知ったから、事業承継の時にはこの4つに気を付けて、むしろ、事業承継を優先事項として検討していけば良いのだね。



コン田

これは、社長の気持ち1つでできる事だから、何とかできそうだね。




事業承継先を探せ



タヌ川

最大の問題は、事業の「承継先」だね。誰に承継してもらうのか?だね。



いくつかのデータがあるので紹介します。

1.経営者の平均引退年齢は、小規模会社で70.5歳、中規模会社で67.7歳
2.2025年度の予想で、70歳以上の経営者が245万人で、その約半数は後継者が未定。
3.後継者が決まる企業は約12.5%、後継者が決まらない企業は約22%、廃業予定の会社は52.6%

健康寿命が男性で72歳、女性で75歳と言われていますが、会社の社長の健康寿命は70歳と言われています。



コン田

70歳で直ちに引退する必要はないのだろうけど、70歳になったら、自分の会社の着地点を事業承継にもって行けるのか、それとも自主廃業にするのかは、一度は考えた方が良いという事だね。

そして、承継をしてもらえる人は誰かを考えるのだね。



タヌ川

そういうことだね。



さて、事業承継の場合には、株式の贈与・売買・相続が主な方法になります。

そして承継先の分類としては、大きく分ければ
 ① 親族承継
 ② 従業員承継
 ③ 第三者承継(M&A) に分けられることになります。


コン田

まずは、それぞれの承継先を簡単に説明してくれないかな。



親族承継と従業員承継と第三者承継



タヌ川

承継先について説明するね。




「親族承継」というのは、経営者の「子供」「兄弟」「甥・姪」などの家族が既に社内で勤務している場合に、その家族に承継させる方法だね。事業承継を考える時に最初に考える事業承継先だね。

メリット

1.親族承継では、通常は無償での承継をするね。贈与とか相続だね。もちろん、売買してお金を動かしても問題はないよ。

2.心情的な話だけど、会社内外の関係者から受け入れられやすいね。

3.親族だから、承継候補者の決定は早いね。

4.承継の準備期間も長くとれるので余裕があるよね。


デメリット 親族承継で問題となる課題には、こういう事があるね。

1.後継者としての教育問題 親族と言う血縁関係は、経営力には関係がないからね。

2.会社内部と取引関係者への周知、理解
後継者にリーダーシップがあれば良いけど、リーダーシップがない場合には、古くからの社員や取引関係者への周知、理解、協力が得られない危険性がるね。

3.金融機関の協力が得られるかは、これまでの人間関係によるよね。

4.贈与、相続の税金の準備できるのか。

5.相続の場合の遺留分
会社の株式が主な相続財産だとしたら、複数相続人の場合には、株式が散在するので、株式の集中が難しくなるよね。


これらの問題点に計画的に対応するためには、突然におこる相続ではなくて、事前から準備できる贈与の方が望ましいと思います。

それに、「特例事業承継税制」を使えば、一定の要件はあるけど、相続税や贈与税が無税で承継する事も可能です。「特例事業承継税制」については、後でも説明するけど、詳しくは専門の会計士さんに相談してね。



②「従業員承継」とは、従業員等の幹部社員に事業承継をさせる方法だね。通常は、株式の売買で行うよ。
だから「特例事業承継税制」は使えないけど、もしも、贈与で移転するなら使える場合もあるよ。条件がいろいろあるから気を付けてね。

メリット

仕事に熟知しているし、金融機関や取引先にも信頼されていることが多いよね。親族承継の次に、もしくは同時に考える事業承継だね。

誰が見てもそれほど能力があるとはいえない我が子と、長年勤務してきて仕事を熟知している役員と、どちらに承継してもらうべきなのかは、親の立場と社長の立場が交錯して悩ましいところだよね。


デメリット 従業員承継で問題となる課題には、こういうことがあるね。

1.後継者としての教育時間が少ない事。

2.誰を承継者にするかは人事問題だから、大問題になるね。

3.心情的に、会社内外の関係者からの受け入れは難しいかもしれないね。

4.株式の売買になるから、株式購入資金の調達が難しいね。

5.金融機関が求めてくる経営者個人保証への対応 中小企業の場合には、1株の純資産額がとても高くなっている場合があり、株式購入金額を金融機関から借入をしなくてはならない場合があるんだ。その場合、承継者の自宅の担保(抵当権等)も考えられるね。

しかも別に、会社借入金の個人保証を要求されることもある。 そうなると、候補者に承継する気持ちがあったとして、その家族までも巻き込むことになるから、家族の反対も考えられるね。

それに、名選手必ずしも名監督にあらず、というように、優秀な従業員だからといって、経営者としても優秀とは限らないからね。



③「第三者承継」とは、親族・社内に後継者がいない場合、会社または事業を他の企業に譲渡することだよ。
いわゆる「M&A」(Mergers and Acquisitions)、合併と買収の意味)だね。

メリット

1.身近で適任者を探せないときには、広く外部に候補者を求める事ができるよね。

2.会社の価値を認めてもらえれば、売却利益を社長が獲得できるね。


デメリット 「M&A」で問題となる課題には、こういうことがあるね。

1.実際に承継先を外部に探せる可能性は低い(約5%の成功率)

2.「M&A」仲介業者の問題、特に費用の問題だね。

3.株主が多い場合には、譲渡会社の反対株主への対応も難しいよ

4.承継会社との譲渡条件(雇用問題、売却代金等)の交渉は大変

5.譲渡会社の負債処理の問題も問題だね。

自分での親族や従業員という知り合いの中から後継候補者を探せない時に「M&A」を使うんだよ。だから、どうしても仲介機関が必要になるよ。


仲介機関の例
 ・金融機関
 ・M&A仲介業者
 ・事業引継ぎ支援センター
 ・民間プラットホーム


問題は仲介費用だね。「M&A」仲介業者の場合には、最低でも500万円位はかかると思ってね。費用は高いけど、マーケットは大きいね。

会社にとっては運転資金や設備資金は不可欠なんだ。だから金融機関から資金の借入をする事は当然なんだ。

でも、その場合に金融機関から代表者の個人保証を要求されている場合があるんだよ。事業承継をする場合には、この個人保証を解除してもらう事が必要だよ。

特に、従業員承継や第三者承継の場合に個人保証を残してしまうと、いつまでも保証で苦しむことになる危険があるから注意してね。




事業承継のために株価を下げる事



サル富

株価が高いから無理やりに下げておくと言う話を聞くよね。それはどういうことかな?



タヌ川

株式の売買の場合を考えてする、事業承継の準備行為だね。



イタチ

株価が高いという事は、株式の売買代金が高いという事でしょ。つまり高い買い物をするという事だからね。



高い買い物だとしたら、仮に後継者が見つかっても、後継者の個人資産では購入ができない事もありますよね。それでは、事業承継の機会を減らしてしまいます。

仮に無理やり安く売買したら、今度は贈与税の可能性もありますからね。だから、株価は低い方が、「購入」の面からは助かるのは確かです。


サル富

安くする方法があるの?



タヌ川

そうだね。あるよ。会社の健全性を考える時に、会社の貸借対照表の話をしたよね。

株価が高いという事は、「資産-負債」の「純資産額」のプラスが大きいということなのだよ。だから、「資産が減る」か「負債が増える」ことになれば、「純資産が減ること」になるよね。




1.会社名義で不動産を購入する
土地の評価額は時価の70%、建物の評価額は60%だから、現金評価より、不動産評価の方が「資産」が減るよ。

2.役員報酬額を引き上げる
役員報酬額は会社の損金になるので、負債が増えるね。


3.役員退職金を支払う
役員報酬の1つなので、損金になり負債が増えるね。


4.生命保険を会社で契約すれば、保険金は損金計上される場合もあるね。




イタチ

でも、せっかく株価の安定した良い会社になったのに、株価を低くするのは逆行しているから、なんか不安じゃないかな?



タヌ川

そのとおり。もちろん、それぞれの手続にもそれなりの手続上の問題点はあるのだけど、

株価を下げる方法の最大の問題点は、後継者が事業承継「後」に株価を復活させるための大変な努力をしなくてはならない点なんだ。




事業承継税制とは



タヌ川

株価を下げたということは、同時に会社の経済的基盤が弱くなったという事を意味するのさ。

そうなると、金融機関からも敬遠されてしまうし、取引先からも要注意会社とみられる危険性があるんだ。



イタチ

そうしたら、承継者としては落ちた株価を上げる事と同時に、金融機関や取引先からの信頼を回復する事に力を注がなくてはならなくなるから大変だね。

しばらくは現状復帰だけで精一杯だね。



タヌ川

そのとおり。事業拡大どころか、場合によっては、株価を下げたことが原因で会社経営が暗礁に乗り上げる危険すらあるからね。



コン田

事業承継の目的とは全く逆に作用してしまう危険性があるんだね。



イタチ

そうか~。でも贈与だと、贈与税がかかるのでしょ?



事業承継税制(贈与税及び相続税の納税猶予及び免除制度)があります。

これは承継者が先代経営者から贈与・相続で株式を取得した時に、経営承継円滑化法による都道府県知事の認定を受けて、贈与税及び相続税の納税猶予又は免除される制度です。法人版と個人版がありますからね。


コン田

それは良い制度だね。無理やり株価を下げなくても良いのだからね。



そうですね。でも、誤解しないで欲しいのは、この制度は申請した時点では免除ではなくて、猶予なのです。

猶予されている間に、決まっている条件がそろえば免除になるだけです。そして、その間に取り消されたら納税額を納める必要があります。

しかも納税猶予期間が来たら「継続届出書」を出す必要があって、忘れると取り消される危険があるし、その他に提出する資料や書類も多いから大変なんです。

税理士さんの協力が必要だから、相談する必要がありますね。


保険の利用の話



サル富

最近は、保険会社も事業承継に保険金の利用を提案しているよね。



タヌ川

そうだね。例えば…



1.相続で株式を取得する場合には、遺留分の対策として保険金を利用すれば、遺留分侵害額を支払う準備ができるよね。そうすれば、株式の散逸を防ぐことができるよね。

2.生命保険金控除枠(法定相続人数×500万円)を利用して、相続税の対策もできるよ。

3.保険金で、株式の買い取り原資に充てることも考えられるよね。

4.生命保険を活用することで株価対策をすることもできるみたいだよ。
ただ、生命保険に関する税務や評価方法は随時変更されているみたいだから、信頼できる税理士さんや保険の担当者さんと一緒に確認しながら慎重に検討したほうがよいだろうね。

 2019年7月8日以降に契約した場合には、解約返戻率が高い商品については、損金算入割合が大幅に制限されています。



タヌ川

さて、次は別の手段も考えてみようね。






コラムを読んで、参考になった!と思った方は、

小冊子「親と子供の未来を守る家族信託物語 認知症と「お金」の話」もぜひ読んでみてくださいね。




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